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大阪地方裁判所 昭和59年(わ)4934号 判決 1985年3月18日

本籍

鹿児島県出水郡高尾野町大久保一八四番イ号地

住居

京都市山科区西野様子見町一の二 市営山科住宅二棟三一五号

会社員

中尾庄一

昭和三年二月一九日生

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察庁宇田川力雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月に処する。

未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。

この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、不動産売買の仲介を業とし、大阪市東淀川区北江口四丁目一〇番一〇号に本店を置く御起産業株式会社(代表取締役森田時男)が同社の唯一の資産である所有土地を売却するにあたり、その仲介をしたものであるが、右森田らと共謀のうえ、右土地売却代金を森田ほか同社の株主らに分配して事実上同社を清算し、同社の右土地売却利益に対する法人税を免れようと企て、被告人において、右土地の売却処分をした後は、同社の業務を執行する意思がないのに、昭和五七年五月七日、森田に代わって同会社の代表取締役に就任した旨の登記をし、同日、同社所有の土地全部を木下興産株式会社ほか一社に代金合計七億二二〇〇万円で売却してそのうち六億七二〇〇万円を被告人が御起産業株式会社の株式全部を譲り受けた対価として支払うという名目で森田ほか株主らに分配して取得させるなどし、事実上同社の清算を行って同社を無資産の状態にするとともに、同会社の登記簿上の本店所在地に事務所を置かず、また代表取締役である被告人はその登記簿上の住所に居住しないで、事実上同社を所在不明の状態にして、同社に対する法人税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめる行為をしたうえ、右土地売却により同社の昭和五七年三月一日から昭和五八年二月二八日までの事業年度における所得金額が六億六五九九万三五三九円で、これに対する法人税額が二億七八七五万七〇〇〇円であったのにかかわらず、昭和五八年四月三〇日の申告期限までに、同市淀川区木川東二丁目三番一号所在の所轄東淀川税務署長に対し、右事業年度の法人税確定申告書を提出せず、もって、不正の行為により法人税二億七八七五万七〇〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書一二通

一  大西芳則(三通)、吉田進(三通)、権春達(二通)、金熙範(一通)、小坂年勝(一通)、辛島宏(二通)、辻井末治郎(二通)、谷口喜八郎(三通)、岸野良吉(二通)、西村昇(一通)、森栄一(一通)、藁幹展(一通)、北尾政夫(一通)、岩田俊雄(一通)、藪謙一郎(三通)、曽我部守(一四通)、森田時男(七通)、武田尚久(一通)、福永也(一通)、岩男一成(一通)及び池田明美(一通)の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の査察官調査書一三通

一  収税官吏作成の脱税額計算書

(法令の適用)

被告人の判示行為は、刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数中五〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事由)

本件犯行は、被告人が御起産業株式会社の土地売却を仲介して手数料を得ようとしたが、同社代表取締役森田時男らから法人税を払わずに土地売却代金を取得できる方法をとらない限り土地を売却しないと言われ、同人らと共謀のうえ、被告人が矢面に立って判示のとおり不正行為により法人税をほ脱したというものであるがその犯行の態様が甚だ芳しくないこと、ほ脱税額が多額であること、被告人には国民の義務である納税についての規範意識が希薄であることなどにかんがみると、被告人の刑責は決して軽くないといわなければならない。しかしながら、他面、本件の共犯者であり、かつ、本件脱税により実質的に利得を得た森田らに対しては刑事訴追がなされず、被告人のみが起訴されたという事情があり、その不均衡を考慮すると、検察官の被告人に対する懲役二年の求刑は余りにも重きに過ぎると考えざるを得ない。そして、右のほか、森田らにおいて本件ほ脱にかかる法人税本税、重加算税などにつき全額納付していること、被告人の前科は罰金刑一回だけであることなど諸般の事情を総合勘案し、被告人に対しては主文掲記の量刑が相当であることを判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 野間洋之助)

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